ブログ・コラム
2026.10.25
なぜ、建築家は希望をそのまま図面にしないのか?|注文住宅を建てる前に知ってほしい、暮らしを考えるという意味での設計提案の価値。
- カテゴリ:
- 住まいと暮らしの設計思想
建築家が、住まい手が最初に思う希望を
そのまま図面にしない理由・・・・・。
奈良で注文住宅を考える方へ
暮らしの本質を見つめる設計と提案の持つ意味。

※希望をそのまま形にするだけでは見えてこない暮らしの軸、
対話を重ねることで生まれる可能性のある暮らしの提案を丁寧に。
せっかく家を建てるなら、
自分たちの希望をできるだけ叶えたい。
広いリビングが欲しい。
中庭のある家に憧れる。
生活感のない、ホテルのような空間で暮らしたい。
収納はできるだけ多く。
家事が楽になる間取りにしたい。
家づくりを考え始めると、
次々に思い浮かぶ希望があると思います。
SNSや住宅雑誌で見つけた
素敵な住まいを眺めながら、
「こんな暮らしができたら」と想像する時間も、
家づくりの楽しみのひとつです。
その一つひとつの希望には、
きっと理由があります。
だからこそ、
私はその希望を大切にしたいと思っています。
ただ、建築家として設計を考えるとき、
住まい手から伺った希望を、
そのまま図面に置き換えることが、
必ずしも最善だとは考えていません。
なぜなら、
希望として口にされた言葉の奥に、
そのご家族が
本当に求めている暮らしの意味が
隠れていることもあるからです。
「広いリビングが欲しい」という希望の、
その先にあるものは?
例えば、
家づくりの打ち合わせでよく耳にする
「広いリビングが欲しい」という希望。
もちろん、
広さそのものが大切な場合もあります。
けれど、少し掘り下げて考えてみると、
広いリビングを希望する理由は、
ご家族によって異なります。
休日には家族みんなでゆっくり過ごしたい。
友人を招いて食事を楽しみたい。
子どもたちが自由に遊べる場所をつくりたい。
家具をゆったり配置して、
落ち着いた時間を過ごしたい。
あるいは、
忙しい仕事を終えて帰宅したときに、
窮屈さを感じず、
気持ちを切り替えられる場所が
欲しいのかもしれません。
同じ「広いリビング」という言葉でも、
そこに込められた思いは違います。
もし、求めているものが開放感であれば、
床面積を増やすことだけが答えではありません。
窓の位置を工夫する。
庭とのつながりを考える。
天井の高さに変化をつける。
家具の配置や視線の抜け方を整える。
そうした設計によって、
同じ面積でも、
空間の感じ方が変わることがあります。
反対に、面積を広げても、
家具の配置が難しかったり、
外からの視線が気になったりすれば、
思い描いていた居心地とは
違ってしまうかもしれません。
大切なのは、
何帖のリビングをつくるかということだけではなく、
その場所で、
どのような時間を過ごしたいのかということ。
私は、その違いを
丁寧に考えて設計の工夫によって
暮らしの根底を支えるためのご提案が
できるようにしています。
希望を否定するのではなく、
別の可能性を探してみるということ。
例えば「リビングには大きな窓が欲しい」という希望。
明るく、開放的な家にしたい。
庭を眺めながら暮らしたい。
その気持ちは、とてもよく分かります。
けれど、敷地の周囲に住宅が建っていたり、
道路から室内が見えやすかったりする場合、
大きな窓を設けることが、
必ずしも心地よさにつながるとは限りません。
せっかく大きな窓を設けても、
外からの視線が気になり、
一日中カーテンを閉めて過ごすことになれば、
望んでいた開放感を
十分に味わえないかもしれません。
そんなとき、
私は窓を大きくすること以外の方法も
考えます。
窓の高さや向きを変える。
中庭を介して光を取り込む。
格子や植栽によって、
外からの視線をやわらかく遮る。
室内から見える景色を整え、
必要な場所に必要な開口を設ける。
それは、住まい手ご家族の希望を
否定することではありません。
「大きな窓が欲しい」という言葉の奥にある、
明るさや開放感、庭を感じる暮らしを、
別の方法でも実現できないかと考えることです。
もちろん、構造や断熱性能、
日射、法規制、予算との関係もあります。
建築の設計は、
ひとつの希望だけで成り立つものではありません。
さまざまな条件を整えながら、
そのご家族にとって心地よい答えを探していく。
そこに、建築家としての
仕事の大切な部分があると考えています。
打ち合わせで、
家とは直接関係のなさそうな話をする理由。
やまぐち建築設計室では、
家づくりの最初の段階から、
住まい手さんとの対話を大切にしています。
間取りやデザインの希望だけではなく、
普段の暮らしについてもお聞きします。
朝はどのように過ごしているのか。
帰宅してから、どこで何をしているのか。
休日は家で過ごすことが多いのか、
それとも外出することが多いのか。
料理や片付けは好きなのか。
どのような時間に、気持ちが落ち着くのか。
時には、趣味や仕事の話、
旅行先で心に残った場所の話など、
建築とは直接関係がないように思える
会話になることもあります。
けれど、そうした何気ない話の中に、
住まいづくりの
大切な手がかりが含まれていることがあります。
例えば、
旅館のような落ち着いた家に憧れている方が、
本当に心地よいと感じているのは、
和風の装飾そのものではなく、
静けさや照明のやわらかさ、
外からの視線を気にせずに過ごせる
安心感なのかもしれません。
そうであれば、
単に和風の材料を選ぶだけでは、
望む暮らしには近づけないこともあります。
深い軒がつくる陰影。
外と内を緩やかにつなぐ中間領域。
座ったときに見える庭の景色。
夜の照明が生み出す、穏やかな明暗。
一つひとつを暮らしに合わせて整えることで、
初めてそのご家族らしい空間が
生まれてくるのだと思います。
好みを知ることと、
その人にとっての心地よさを理解することは、
似ているようで少し違います。
だからこそ、
図面を描く前の対話にも、
時間をかける意味があるのです。
「おすすめしません」と伝えることにも、
責任があるということ。
家づくりでは、たくさんの選択を重ねます。
間取り、設備、素材、照明、収納、家具、庭。
どれも魅力的に見えるからこそ、
迷うこともあるかと思います。
そして、住まい手さんが希望されることに対して、
建築家として別の考えを
お伝えする場面もあります。
ただし、それは設計者の
好みを押しつけるためではありません。
なぜ、その選択が気になるのか。
暮らし始めてから、
どのような影響が考えられるのか。
別の方法には、
どのような可能性があるのか。
その理由を分かりやすくお伝えし、
一緒に考えることが大切だと思っています。
例えば、生活感を隠した
美しいキッチンを希望される場合。
見た目を整えることはもちろん大切ですが、
毎日の料理や片付け、
買い物から帰宅したときの動線まで
考える必要があります。
冷蔵庫や家電を隠すことが、
必ずしも使いやすさにつながるとは
限りません。
隠す収納をつくるのであれば、
どこに何を収納し、
どのように使うのか。
扉を開け閉めする動作に負担はないか。
家族が同時にキッチンを使うとき、
動線が重ならないか。
見た目の美しさと、日常の使いやすさ。
どちらも大切にするために、
時には当初の希望とは
違う方法を提案することもあります。
もちろん、
最終的にどのような暮らしを選ぶかは、
住まい手さん自身の
価値観によるものです。
建築家の役割は、
正解を一方的に決めることではなく、
納得して選べるだけの選択肢と、
その判断材料を用意することだと考えています。
美しい家をつくることと、
心地よく暮らせる家をつくること。
私は、住まいの美しさを大切にしています。
和モダンの落ち着いた佇まい。
素材の質感。
光と影の関係。
余白のある空間。
家具や照明まで整えられた、
上質なインテリア。
そうした美しさには、
日々の暮らしの気持ちを
豊かにする力があると思います。
一方で、写真に写る美しさだけでは
分からないこともあります。
朝の忙しい時間に、
家族が気持ちよく身支度できること。
帰宅して、自然な流れで
荷物を片付けられること。
休日に好きな椅子に座り、
庭を眺めながら過ごせること。
家族の気配を感じながら、
それぞれが自分の時間を持てること。
そんな日常の小さな心地よさが積み重なって、
住まいへの愛着が
深まっていくのではないでしょうか?
完成した瞬間に美しいだけではなく、
暮らし始めてからも、
その良さを感じられる家。
建築家に相談するということは、
希望を伝えるだけではないということ。
〇関連blog・コラム
理想を詰め込むほど、いい家になるとは限らない|注文住宅を建てる前に知っておきたい「間取りは足し算ではない」という考え方
https://www.y-kenchiku.jp/blog_detail968.html
家づくりを始めるとき、
すべての希望が
明確になっている必要はありません。
「こんな雰囲気が好き」
「今の暮らしで、ここが少し不便」
「もっと落ち着ける家にしたい」
そんな言葉からでも、
考え始めることはできます。
ご夫婦で意見が違っていても構いません。
何を優先したらよいのか、
まだ分からなくてもよいと思います。
むしろ、その違いや迷いの中に、
これからの暮らしを考えるための
大切な手がかりがあることもあります。
家づくりは、要望を伝えて
図面を受け取るだけのものではありません。
会話を重ね、考えを整理し、
時には新しい可能性に気づきながら、
自分たちにとって
大切なものを見つけていく時間でもあります。
そして、その過程で
最初は思いつかなかったけれど、
こういう暮らし方もいいかもしれない
と感じられること。
それも、建築家と一緒に家を考える
価値のひとつだと思います。
これからの暮らしを、
どのように描いていきますか?
家を建てることは、大きな決断です。
だからこそ、
希望をできるだけ叶えたいと思うのは
自然なことです。
私は、その思いを大切にしながら、
もう一歩先の暮らしまで
丁寧に考えていきたいと思っています。
今、欲しいと思っているもの。
その理由。
そして、これから長く暮らしていく中で、
本当に大切にしたいこと。
それらを丁寧に重ね合わせながら、
住まいの形を考える。
希望をそのまま図面にしないのは、
希望を軽く考えているからではありません。
その希望が生まれた理由まで
大切にするべきだと考えているからです。
やまぐち建築設計室では、
奈良県橿原市のアトリエにて、
完全予約制の個別建築相談を行っています。
奈良市、橿原市、生駒市、香芝市、
葛城市、桜井市をはじめ、
奈良県内や近隣地域で、
注文住宅の新築、建て替え、リフォーム、
リノベーションを検討されている方へ。
和モダンの家、中庭のある家、平屋、
ホテルライクな住まいなど、
理想のイメージがある方も、
まだ具体的な形が見えていない方も。
まずは、どのような暮らしを大切にしたいのか。
そこから、お話を伺えればと思います。
家の形を決める前に、
これからの暮らしについて考える。
そんな時間から、
住まいづくりを始めてみませんか。
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■やまぐち建築設計室■
奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
建築家 山口哲央
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