ブログ・コラム
2025.06.11
中庭を“もうひとつの部屋”として設計する——奈良の風土と暮らしを活かした、風と光を取り込むパッシブな住まいの考え方。
- カテゴリ:
- 庭・中庭・外構と暮らす設計
中庭を味わう空間のある暮らしを考える
風と光を導く“もう一つの部屋”を
住まいに設計するという発想と設計の工夫。
※室内から自然を味わう、心地よさを設計した中庭のある住まい提案の実例
リビング・ダイニングから大きな開口を通して眺める中庭は、
芝生と落葉高木がつくる微気候の空間。
モンキーポットの一枚板テーブルと黒スチールの脚が印象的なインテリアが、
外との一体感を高め、
風と光がやわらかく巡る心地よい暮らしを演出します。
中庭という存在が暮らしにもたらすものとは?。
「中庭のある家に憧れています」
そうお話くださるご相談も、
近年は増えています。
ただ「おしゃれだから」という理由にとどまらず、
暮らしの質を高めたいという
本質的な想いが背景にあるように感じます。
中庭とは、
家の中心部または囲まれた
空間の中に設けられる
屋外空間でありながら、
室内と外部をなめらかに結び、
視覚・通風・採光・自然との距離感に
大きな影響を与える“建築的装置”でもあります。
奈良のように四季が明瞭で、
夏は蒸し暑く、
冬は底冷えのする気候風土において、
中庭をどのように暮らしに組み込むかは、
単なるデザインの話ではなく
「環境性能」の話にもつながります。
中庭が「風と光の道」として機能するための理屈。
建築における“快適さ”の要素は、
断熱・気密・採光・通風・素材の触感
音環境など多岐にわたります。
その中で「風が心地よい」と
感じられる家は、
単に窓が多い家ではありません。
風を通すには“温度差”と“高さの差”を
意識した設計が不可欠です。
■ 自然の理に従う:温度差が生む気流の動き
暖かい空気は上昇気流となり、
冷たい空気は下降気流になる。
この原理を活かし、
高低差のある開口(ハイサイドライト×地窓)を
設計することで対流を起こす。
家の中に風が「流れる」には、
入口(吸気)と出口(排気)を
適切に設けることが前提。
■ 中庭が風の「起点」になる
たとえば、
中庭の地面が草木に覆われていて、
日射を遮り、
土壌が冷えた状態に保たれていれば、
冷たい空気が
下から湧き出すように立ち上ります。
そのとき、
屋根の高い窓から
暖かい空気が抜けていくと、
自然の気流が中庭を通じて
家中を循環する装置として働くのです。
具体事例に学ぶ「風が生まれる中庭の設計」。
やまぐち建築設計室が
設計したある住まいでは、
夏の炎天下でも
中庭を通じて
室内に心地よい風が吹き抜ける体験を
住まい手さんご家族が
日々実感されています。
※やわらかな自然とつながる、暮らしに寄り添う中庭のあるLDK空間提案設計事例
落ち着いた木の質感で統一されたLDKから見える中庭は、
グランドカバーと落葉樹に囲まれた涼やかな佇まい。
視線が抜け、風が巡り、自然とともに呼吸するような住宅空間は、
日常に安らぎと開放感をもたらします。
一部タイルテラスも手伝って
中庭が“もうひとつの部屋”として、暮らしの質を高めています。
■ 暮らしの環境をつくりだす工夫
中庭にはコケ類、
キチジョウソウや
タマリュウといった
グランドカバーを敷き詰め、
土壌からの蒸発を抑えつつ
視覚的にも涼やかに
コナラなどの落葉樹を選定し、
夏は日差しを遮り、
冬は落葉して光を取り入れる計画。
東西南北それぞれに
意味を持たせた窓配置で
「風の道」を家全体に通す・・・・・。
結果として、
エアコンだけに依存しすぎずに
夏を快適に過ごせる、
環境にやさしく、
住む人の身体感覚に馴染む
住まいという方向性も。
中庭を「体験」として暮らしに取り込む。
中庭がただの屋外スペースではなく、
暮らしの中で
活きてくるためには
「視線・動線・体験」の3つの軸を
計画することが重要です。
■ 視線の抜けが生む心理的広がり
中庭は視覚的な開放感をもたらします。
特に経常的に家の間取りと連動した
コの字型、
ロの字型のプランにおいて、
空間を分断せず、
つなぎながら開く役割を担います。
家の中から常に「空と緑」が
視界に入ることで、
心が落ち着き、
室内の面積以上の開放感が得られる。
■ 動線との融合で「自然のある生活」が日常に。
玄関からリビング、ダイニング、
書斎へとつながる動線の中に
中庭を挟み込むことで、
歩くたびに景色が変わる
動きのある住まいが実現。
中庭を回遊できる構成にすると、
子どもたちの遊び場にも、
来客時のおもてなしにも
そして自分たちの「暮らし」の有意義な時間にも
多彩に活用できます。
設計者の視点——、
情緒と理性を両立させる中庭設計。
「涼しい」「明るい」
「気持ちいい」といった
感覚的な評価はとても大切です。
しかしそれは、
設計者が住まい手さんや自然の摂理にある
“裏側にある理屈”を
把握しているからこそ、
再現可能な価値になります。
やまぐち建築設計室では、
感覚の裏付けを科学する
設計を大切にしています。
■ パッシブデザインとの連動
中庭は「日射取得」「通風」「採光」「蓄熱」
といったパッシブな設計要素と
非常に相性が良い。
奈良のような
寒暖差のある地域では、
“中庭+断熱+通風”の三位一体設計が、
心地よさと
省エネを両立させる鍵となる。
■
ロケーションを読み解く力
敷地に隣接する建物や高低差、
風の流れ、隣地の木々や空の広がりなど、
中庭設計には敷地特性の理解が不可欠。
一邸一邸の「土地の個性」を読み取り、
それを活かす中庭計画を行うことで
唯一無二の
住宅デザインが生まれます。
中庭設計の注意点と「やってはいけない」設計。
中庭は効果的に機能すれば
理想的な空間ですが、
設計の要点を外すと
「ただの使いづらいスペース」に
なってしまいます。
■ よくある設計の失敗例として考えられる事。
・水はけの計画を怠る → 湿気や苔で荒れる
・日陰が多すぎて植物が育たない
・プライバシーの確保を意識しすぎて閉鎖的になる
・外構との一体設計がなされておらず、孤立した空間になる
■ 重要なポイント
・水勾配、排水計画を初期段階で設計に組み込む
・使用目的(眺める/使う/通る)を明確にして設計する
・外と内の接続感をデザイン的・動線的に整理する
奈良という風土に中庭は合うのか?。
奈良の夏は高温多湿、
冬は内陸特有の底冷え。
風は季節によって変化し、
日射の角度もはっきりと変わります。
この気候において
中庭は「四季と調和した家づくり」のために
とても相性が良い要素です。
・夏は涼しさを、
冬は光を取り込む装置として機能
・近隣住宅が密集する市街地でも、
プライバシーを確保しながら開放感をつくれる
・奈良という風土を生かしつつ、
中庭の力を最大化することは、
自然とともに生きる
設計の原点に立ち返ることでもあります。
中庭を中心にした「豊かな暮らしの構築」。
・朝、光が差し込む庭を眺めてコーヒーを淹れる
・昼間は子どもたちが外でも中でも元気に走り回れる
・夕方、落ち着いた光とともに一日の終わりを感じる
中庭は「自然を暮らしに引き込む」という
建築的回答の一つ。
決して装飾ではなく、
時間と空間、
心の動きに寄り添う存在です。
“中庭を味わう暮らし”は、
暮らしの原点を考える設計から始まる。
中庭のある暮らしには、
多くの可能性があります。
しかしそれは「ただつくれば良い」
というものではなく、
土地・暮らし・設計の三者が
一体となって初めて実現する空間です。
やまぐち建築設計室では、
奈良の風土と丁寧に向き合いながら、
住まう人が日々「自然を感じ、心が整う」
中庭のある暮らしを
一緒に構想していきます。
やまぐち建築設計室は
その家に暮らす家族の過ごし方を
デザインする設計事務所です。
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■やまぐち建築設計室■
奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
建築家 山口哲央
https://www.y-kenchiku.jp/
住まいの設計、デザインのご相談は
ホームページのお問合わせから
気軽にご連絡ください
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